ハンセン病、あるいは、「らい病」と呼ばれた病気を知っている人は、いまではとても少ないでしょう。
しかし歴史をさかのぼると、ハンセン病は「神さまからの罰」「前世の行いが悪かったためにかかる病気」などとされ、
さまざまな差別の対象となってきました。
ハンセン病は、らい菌と呼ばれる菌によって引き起こされる、慢性の感染症だということがわかっています。感染力はきわめて弱く、95%以上の人が、らい菌に対する免疫を持っているため、たとえ感染しても自然治癒し、発症することはきわめて稀です。一般的な初期症状は、皮膚に現れる斑紋です。この斑紋は白、または赤・赤褐色で、知覚がありません。この特徴が、草の根レベルで診断する際の判定基準となっています。
細菌による二次感染で、手・足の傷口の化膿や潰瘍が進みます。ついには身体の一部が変形、欠損してしまうことも多くありました。その姿ゆえに、恐れられたのです。多くの国で、ハンセン病患者たちは島などに隔離されました。多くの場合、仮名や番号によって呼ばれましたが、それは残された家族に迷惑が及ぶのを避けるためでした。
ハンセン病は一度かかったら治らない、神さまからの罰である、感染を避けるためには隔離が最善の方法だ----。
こうした過去の認識はまちがっています。ハンセン病にはMDTと呼ばれる治療法があり、
早期に治療すれば、痕も残すことなく完治できるのです。
MDTとは「多剤併用療法」の略で、1981年にWHO(世界保健機関)の研究班によって開発されました。MDTに必要な治療薬は、世界中どこでも無償で提供されています。
1985年から現在までに、500万人いた患者を20万人にまで減らす事ができました。2021年の時点では、世界中で1,800万人の人がMDTによって完治したことになります。(出典:WHO世界ハンセン病戦略2021-2030)
ハンセン病の「制圧」とは、人口1万人にハンセン病の患者が1人未満になること。
これはWHOが定めた目標で、「公衆衛生上の問題としてハンセン病を制圧する」という明確な目標を設定したことにより、
世界中で約1,800万人の感染者を治療し、世界中すべての国での「制圧」まであと1カ国となりました。
ブラジル以外の国では、ハンセン病の制圧目標は達成されました。
しかし、これはあくまで数値目標の達成であり、ハンセン病根絶を意味するものではありません。
ハンセン病を「制圧」したとする「人口1万人に1人未満」は、あくまでも平均値。世界には、患者たちが集まる「ホットスポット」と呼ばれる場所が、まだ数多く存在します。その多くが貧しい地域です。
薬で治る病気にもかかわらず、ハンセン病はいまだに世界各地で差別の対象となっています。患者自身、そして患者の家族までもが、いわれのない差別を受けつづけているのです。私たちは正しい知識とともに、差別に立ち向かう勇気をもたなければいけません。
2010年9月には「ハンセン病差別撤廃を目的とする原則及びガイドライン」が国連人権理事会で採択されました。1994年に立ち上げられたIDEA(共生・尊厳・経済向上のための国際ネットワーク)など、偏見とたたかうための組織も数多く生まれています。
世界の各地でハンセン病患者や回復者が置かれている現実をカメラにとらえました。
差別を恐れて隠れるように暮らす人。自らの体験を活かし医療行為に関わるようになった人。
さまざまな人生が見えてきます。
2014年3月。22歳だった華恵はリポーターとしてハンセン病の現場に足を踏み入れました。 「ハンセン病について、ほとんど何も知らない」。それは、今この画面の前にいる多くの人と同じかもしれません。そんな状況で始めた取材は、驚き、戸惑い、悩むことの連続でした。しかし彼女は2年半に...
『聖書』では、ハンセン病を患った者は“
世界中のハンセン病の現場に足を運び、人々とふれあう日々。
制圧大使が実際に目にした、ハンセン病の「いま」。
ハンセン病問題を置き去りにすべきでない、
というメッセージを世界に向けて発信します。