The Documentary / ハンセン病の現場にレンズを向けて
vol.4
India
世界一のハンセン病大国、インド。
新規患者は年間13万人、回復者は1,200万人。
その多くが一般社会から排除され、回復者だけが住むコロニーで支え合いながら生きています。
閉ざされた世界で、彼らはどのような思いで暮らしているのでしょう。
デリーにある、インド最大のコロニーにレンズを向けました。
本編 32分23秒
カースト制度による差別意識が色濃く残るインドでは、ハンセン病に罹った人は「不可触民(=人間ではない穢れた存在)」とみなされます。家族や社会からは見放され、働く場を持つこともできなくなってしまうのです。そのため回復者の多くは地べたに座り、埃にまみれて物乞いをしなければ生きていけません。人間としての尊厳を失ったことを憂い、自ら命を絶つ人もいます。社会から偏見を無くし、回復者が社会復帰するためにはどうすればよいのでしょう。
ハンセン病大国インドには、大きな問題が突きつけられています。
アショーク・クマール(回復者)
子どもの頃から手先が器用だったクマールさん。夢は“軍隊のエンジニア”になることでした。しかし16歳でハンセン病を発症した後は、不可触民として生きていかなければならなかったため、学校を中退。夢は断たれました。周囲からの差別は酷く、飲食店で食事をすれば、「今後その皿は使えないから皿代を払え」と言われ、親友の家では座った椅子を捨てられました。辛さに耐えられず、入水自殺を図ったこともあります。
48歳になった今、クマールさんには奥さんと一人息子がいます。
「子どもは親の真似をする。だから自分が落ちぶれた姿は見せたくない」
コロニーの友人に物乞いを勧められたこともありましたが、断固拒否。電気工として働いています。
左手に後遺障害を抱えているため作業に時間はかかりますが、人一倍の努力で乗り切っています。
そんなクマールさんの、新たな夢。それは、「息子にエンジニアになってもらうこと」。
子どもの学費を稼ぐため、日々電柱に登り電気工事に汗を流しています。
スーリング・アンマ(回復者)
早くに父親を亡くしたアンマさんは、母親と弟で雑貨店を経営しながら暮らしていました。しかし10歳でハンセン病を発症。母親はアンマさんを寺院やモスクに連れて行きました。インドではハンセン病を“業病(=前世での悪業の報い)”と信じる人が少なくありません。そのためお祓いで治療しようとしたのです。周囲にハンセン病であることを隠しながらお祓いを続けた二人でしたが、症状は徐々に悪化。アンマさんがハンセン病だと知った親戚に家や土地を奪われ、村から追い出されてしまいました。
その後、アンマさんは家族と別れ、デリーにやって来ました。頼る人もなく、涙を流しながら物乞いをする毎日。仕事をしようと裁縫工場や警備会社を訪ねても追い返されました。
「私たちはコロニーの中でしか生きていけないんです」
インドには、アンマさんのような回復者が数多くいます。
総合演出:浅野直広 / ディレクター:石井永二 / プロデューサー:浅野直広、富田朋子 / GP:田中直人 / 海外プロデューサー:津田環
AD:松山紀惠 / 撮影:西徹、君野史幸 / VE:岩佐治彦 / 音響効果:細見浩三 / EED:米山滋 / MA:清水伸行
コーディネーター:Sushil Doval、Arnimesh Kumar / リポーター、日本語版ナレーター:華恵
制作:テレビマンユニオン
vol.5
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vol.3
ハンセン病の「制圧」とは、人口1万人あたり患者数を1人未満にすることです。WHOがこの目標を掲げてから、世界ほぼ全ての国でハンセン病の制圧が達成されました。しかしブラジルだけが、今もこの目標を達成できずにいます。発展を続ける大国にもかかわらず、なぜブラジルは...