The Documentary / ハンセン病の現場にレンズを向けて
vol.12
India
インドの回復者はこれまでの人生で得たものを全て捨て、社会の片隅で身を寄せ合って生きています。
家族や故郷、学業や職業を失った彼らに残されたものは、物乞いをするだけの人生でした。
笹川陽平さんと日本財団は、インドの回復者が物乞いをすることのなく生きていける社会を実現するために活動しています。
その一つが、ササカワ・インド・ハンセン病財団(SILF)です。
「物乞い」から、「働いて生きる」。新たな一歩を踏み出した回復者の姿にレンズを向けました。
本編 34分33秒
「ハンセン病コロニ―から物乞いをゼロにする」という目標を掲げて2006年に設立されたのが、ササカワ・インド・ハンセン病財団(SILF)です。コロニ―に住む回復者とその家族が自立できるよう、仕事を始めるための支援を行っています。
しかしその道のりは厳しいもの。働いたことのない回復者に、まず「働くこと」の意味を理解してもらうところから始めなくてはなりません。そして継続可能な仕事かどうか事業内容を吟味し、職業訓練を実施。知識も経験もない彼らに仕事のノウハウを教えます。融資後も、事業が軌道に乗るまでフォローを続けます。また融資金の返済を求めないことも、SILFの大きな特徴の一つです。事業で生まれた利益は、次の事業の準備資金にするためコロニ―に還元されるのです。
もちろん全てのプロジェクトが順調に進むわけではありません。その最大の障害は、回復者の“内”にあります。長年の物乞い暮らしによって、働かなくても生きていけるという意識に染まり切っているのです。
現在、SILFは回復者の未来を見据えて、171の支援プロジェクトを進めています。
サラン・ガヤダネさん(インドハンセン病回復者協会MP州代表・回復者)
SILFの活動が円滑に進むよう協力しているのが、インドハンセン病回復者協会(APAL)。インド全土およそ850のハンセン病コロニ―が結束し、回復者の差別撤廃や生活向上のために活動する組織です。
インド中部マディヤ・プラデシュ州にある33のコロニ―を束ね、リーダーとして働くガヤダネさん。日々コロニーを訪ねては問題を洗い出し、解決のために奔走しています。またSILFの自立支援プロジェクトを始められるよう「働くこと」の大切さを説得しています。
ガヤダネさんは4歳の時にハンセン病を発症。8歳で患者や回復者が通う学校に入学します(インドでは社会的弱者のため宗教団体などが学校を運営している。ハンセン病の患者、回復者、その子どもたちはこうした学校に入学することが多い)。子どもの頃から勉強が好きで、リーダー的存在だったガヤダネさんは、友人や先生から「弁護士さん」とあだ名をつけられ、自身も弁護士になることを夢見ます。しかし、その夢は高校卒業と同時に絶たれます。回復者であるガヤダネさんには学業を続ける方法がなかったのです。手持ちのお金は無く、支援も受けられない。学費を稼ぐにも雇ってもらえない。
ガヤダネさんが呟いた一言、「ハンセン病にさえならなければ・・・」。この言葉は過酷な現実に晒され続ける、全ての回復者の叫びです。
ジャヤ・ダーメシュさん(回復者)
ダーメシュさんの住むコロニーは、2011年にSILFの援助を受けて農業を始めました。今は大豆と小麦を市場に卸しています。しかし住民は自分たちの畑で採れた作物を食べたことがありません。「自分たちのはモノがいいから売ってしまって、安いものを買って分け合うんだよ!」そんなお金の苦労話すら、みな笑顔で話します。
ダーメシュさんは2007年にこのコロニーへやってきました。ハンセン病を発症したことで、婚約を破棄され、故郷から追い出されたのです。当時のコロニーは州政府から援助された畑があったものの、お金がなく荒地のまま。住民はみな、物乞いの収入だけを頼りに暮らしていました。しかしその生活はSILFの支援によって変わっていきます。少しずつ農業の収入が手に入るようになり、物乞いをする回数がずっと減ったのです。
早朝から畑に出て、草抜きや肥料撒き、収穫などの作業に励むダーメシュさん。その両手には指が一本もありません。取材時、コロニ―の畑には仲間と蒔いた小麦が芽吹き、朝日に照らされていました。
総合演出:浅野直広 / ディレクター:奥田円 / 取材:石井永二 / プロデューサー:浅野直広、富田朋子 / GP:田中直人
海外プロデューサー:津田環 / AD:松山紀惠、渡辺裕太 / 撮影:西徹、君野史幸 / VE:岩佐治彦 / 音効:細見浩三
EED:米山滋 / MA:清水伸行 / コーディネーター:Sushil Doval、Arnimesh Kumar / リポーター・日本語版ナレーター:華恵
制作:テレビマンユニオン
vol.13
ブラジルは世界に唯一つ残るハンセン病未制圧国です。 2015年の登録患者数は20,702人。 「制圧」基準の1.01倍、達成まであと少しのところにきています。 しかし、現場では大きな問題が横たわっていました。数字に表れない“隠れた患者”の存在です。
vol.11
降り注ぐインドの強烈な日差し。手押し車に座った彼らとその間にさえぎるものは何もありません。患部が目立つ姿勢を作り「お父さん、お母さん、お金をください」と叫んで、他人に手を差し出し続けます。「物乞い」をすることでしか生きていけないインドの回復者たち。彼らは日々...