モロッコ 制圧、その光と影

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  「患者さんが治った後も病院まで来てくれるんです。治療じゃなくて、僕の顔を見るために！」

  アブデルカデル・ラマダニ（看護師）

  ラマダニさんは患者発見と治療のために特別な教育を受けた看護師です。モロッコ北部のタンジェ-ティトワン地方で訪問診察を行っています。担当する地域は半径100㎞以上、小さな集落が山間の僻地に点在しています。このような場所では遠くの町にある病院に通うことが難しいため、未治療の患者が取り残されていました。
  「この活動を始めた1980年頃は道がひどくて車なんか使えなかったからね、ロバに乗って何日もかけて患者の元に通ったもんだよ！」と笑うラマダニさん。自分の足で家々を一軒一軒訪ね、35年にわたり診察と治療を続けています。現在も訪問診察に丸1日かかることが度々です。しかし診察を受ける村人たちが、特別な昼食を準備して歓迎してくれるので問題ありません。今回取材した回復者のディブさんも「彼は看護師以上の存在、友人であり恩人なんだ」と笑顔で話してくれました。ラマダニさんはそんな人たちのために、定年を迎えた現在も無報酬で「コンタクト」を続けています。

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  「ハンセン病には、ハンセン病になった人にしか分からない痛みがあります」

  モハメッド・シモウ（回復者団体副代表）

  シモウさんはハンセン病が治った今も両手に障害が残っています。しかしその後遺障害よりも辛かったのが、周囲の差別だったと言います。そんな中でも、シモウさんは差別に負けることはありませんでした。偏見を払拭する為にハンセン病の正しい知識を学び、それをどんな相手にも伝えられるようフランス語や英語を勉強するなど努力を重ねてきました。（モロッコの公用語はアラビア語とベルベル語。フランス語は第二言語として使用されている）。
  自分と同じように差別に苦しむ仲間がいることに気づいたシモウさん。2012年、患者や回復者をサポートするNGOの設立に参加しました（モロッコ回復者団体APAMH）。身を持ってハンセン病に対する差別や偏見を知っているからこそ、患者や回復者と社会の架け橋になれると積極的に活動しています。
  「こんな僕でさえ、少し前まではあなたたちと普通に話ができるなんて想像できなかったんだよ」
  彼を突き動かすのは、差別に苦しんだ過去。そして力になっているのは、その時に得た知識と言葉です。シモウさんの勇気と行動は、ハンセン病の患者や回復者が社会に対して立ち上がることがいかに大変なことなのかを、私たち取材班に教えてくれました。

  ※シモウさんは現在別のNGOで活動しています