The Documentary / ハンセン病の現場にレンズを向けて
vol.8
Portugal / Spain
ハンセン病の新規患者がほとんど出なくなった、ポルトガルとスペイン。
回復者の高齢化は進み、その数は年々減少の一途をたどっています。
ハンセン病が風化しつつある今、両国では療養所が新たな役割を担い始めました。
ポルトガルとスペインに残る、それぞれのハンセン病療養所にレンズを向けました。
本編 28分17秒
ポルトガルとスペイン、それぞれに残るハンセン病療養所。
この場所には、かつてのハンセン病差別を物語る跡形が生々しく残っています。
療養所の敷地をぐるりと囲う、巨大な外壁。
患者の親とその子どもを強制的に引き離した、ガラス越しの面会室。
「伝染する」「不治の病」という誤解と偏見が生み出した差別の産物は、
今も回復者の記憶に鮮明に蘇るほど、長年に渡って彼らを苦しめてきました。
そんな回復者も今日では亡くなる人が増え、
彼らが歩んできたハンセン病の歴史が消え去りつつあります。
“負の歴史”を風化させないため、これから私たちに何ができるのでしょうか。
回復者一人ひとりの人生が詰まった、ハンセン病療養所。その新たな在り方が、問われています。
アベル・アルメイダ(回復者・ポルトガル)
アルメイダさんは現在89歳。物心がついた時にはすでにハンセン病に罹っており、親元を離れてロヴィスコ・パイス療養所に住んでいました。
12歳の時にハンセン病を完治。その後まもなく「実家の母親が死んだ」という知らせが届き、急いで実家へ向かおうとしました。しかしハンセン病はすでに完治しているにも関わらず、療養所の外に出ることは許されませんでした。いくら時が過ぎても母親を亡くした実感を持つことができません。「自分は孤児になったんだ」と何回も自分自身に言い聞かせました。母親の最期に立ち会えなかったことを、アルメイダさんは今でも深く後悔しています。
アルメイダさんは正義感に溢れた人です。かつて療養所内では、入所者の自由を脅かす不条理なルールが多数存在していました。しかしその状況に臆することなく、患者・回復者の代表として、ハンマーを片手に自分たちの権利を療養所の所長に主張したこともありました。その代償として、独房の中で過ごした回数は数え切れません。自分が生きてきた壮絶な人生を取材班に熱く語る、アルメイダさん。その目には鬼気迫るものがあります。
マヌエラ・ロペス(回復者・スペイン)
現在87歳のロペスさん。22歳の時にハンセン病を発症し、フォンティーイエス療養所に入所しました。
最初は「実家に帰りたい」と泣き叫ぶ毎日。そんな彼女を、療養所の仲間は暖かく迎え入れてくれました。患者同士で結成された劇団や聖歌隊に積極的に参加。療養所の催しで披露するなど、充実した日々を送りました。
一年の治療の末、ハンセン病を完治。同時期にロペスさんは同じく回復者の夫、アントニオさんと出会い、まもなく二人は結婚しました。お互い目立った後遺障害がなかったため、療養所を出てマドリードで生活を始めました。当時はまだハンセン病への偏見が強く、怖れられていた時代。“ハンセン病回復者”という事実を決して周囲に知られないよう、必死で隠したと言います。そして今から二年前、アントニオさんが別の病気を患ったことにより、再度、フォンティーイェスに二人で移住しました。
「人生で一番幸せだったことは、夫と出会えたこと」と涙を流す、ロペスさん。実は彼女、取材班が訪れる一年ほど前に、アントニオさんを亡くしていたのです。ロペスさんは取材中、枕元にあるアントニオさんの写真を手にしては眺め、何回もキスを繰り返しました。いつか自分も死んだ時は、天国でもう一度最愛の夫に寄り添えるよう、毎日神様にお祈りをしているそうです。
総合演出:浅野直広 / ディレクター:石井永二 / プロデューサー:浅野直広、富田朋子 / GP:田中直人 / 海外プロデューサー:津田環
AD:松山紀惠、浜田玲 / 撮影:西徹、君野史幸 / VE:岩佐治彦 / 音効:細見浩三 / EED:米山滋 / MA:清水伸行
コーディネーター:(スペイン)NOVAJIKA,S.A.、Jordi Juste、Mariona Carrera、有本彩 (ポルトガル)堀愉実子、中村みどり、小椋雅文
リポーター・日本語版ナレーター:華恵
制作:テレビマンユニオン
vol.9
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vol.7
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