2016年1月31日(日)、「世界ハンセン病の日」に合わせ、東京・六本木ヒルズに併設するイベントスペースumuでハンセン病をテーマにした「ビブリオバトル」(日本財団主催)が開催されました。会場には若い人々が多く詰めかけ、立ち見が出るほどの大盛況。5人の若者たちがハンセン病に関する本や文学を、それぞれ工夫を凝らして語り、熱気あふれる書評バトルが繰り広げられました。
「ビブリオバトル」とは、「バトラー(発表参加者)」が、持ち寄った本を5分間でプレゼンテーションし、会場の観戦者全員による投票で、最も読みたくなった「チャンプ本」を決定する書評合戦イベント。
冒頭、日本財団の田南立也常務理事が「今回のビブリオバトルによって、若い世代にこの病気のことを知ってもらいたい。ハンセン病の歴史を負の歴史ではなく現代に通じる大きな問題として、〈生の歴史〉としてとらえていかなければならない」と挨拶で述べ、ビブリオバトルが幕を開きました。
参加したバトラーは、あらかじめ行われた予選を勝ち抜いた5人。
エントリー作品は以下の通り。
1)近藤宏一『闇を光に』(みすず書房)
〈バトラー〉平野紘佑さん
2)石井光太『蛍の森』(新潮社)
〈バトラー〉大橋航平さん
3)宮里良子『生まれてはならない子として』(毎日新聞社)
〈バトラー〉横森夏穂里さん
4)ドリアン助川『あん』(ポプラ社)
〈バトラー〉秋田悠太さん
5)遠藤周作『わたしが・棄てた・女』(講談社)
〈バトラー〉鄧晶音さん
写真左上:重症の人々が点字を舌で読む「舌読」の存在を知り、衝撃をうけたと語った平野紘佑さん
写真右上:鄧晶音さんは「ハンセン病文学」らしからぬ挑発的なタイトルに魅かれたという
写真左下:原作者・ドリアン助川氏を前に堂々と『あん』を紹介した秋田悠太さん
写真右下:惜しくも決選投票で敗れた大橋航平さんは巧みな話術で会場を盛り上げた
それぞれがハンセン病に関する本や文学との出会いの経緯、そこから自分たちが学びえたものや感じたことについて身振りも交えながら、個性的なプレゼンを披露しました。全員の発表が終わると、「自分が一番読みたくなった本」に観客が挙手をし、チャンプ本が決まります。
結果発表を前に、ゲストとして招かれた、IDEA代表で回復者の森元美代治氏、女優、作家・中江有里氏、映画『あん』原作者・ドリアン助川氏の3人によるスペシャルトーク「文学とハンセン病」が行なわれました。
ドリアン助川氏は『あん』執筆の動機や、契機となった森元美代治さんとの出会い、また創作活動の意義に触れ、ノンフィクションでは描けない真実を小説は提示することができるのだと、フィクションの持つ可能性について語りました。
大学の卒業論文で北條民雄を取りあげたという女優の中江有里氏は、発表された本の多様さに触れながら「ハンセン病を窓口に、人間とはなにか、そして生きるとはどういうことか考えることができる」とハンセン病を学ぶことの意味を強調しました。
左から森元美代治氏、中江有里氏、ドリアン助川氏。それぞれ「ハンセン病文学」への思いと次世代に向けてのメッセージを語った
最後に結果発表が行われ、二人のバトラーが同率一位に。再度、決選投票を行い、横森夏穂里さんが発表した宮里良子氏の『生まれてはならない子として』が見事チャンプ本に選ばれました。「療養所で暮らすハンセン病回復者を両親にもつ著者の宮里氏が、差別や偏見に怯え出自を隠しながらも、次第に運命を受け入れ生きようとする姿に、生きる希望を見出した」という横森さんのプレゼンが多くの共感を呼んだようです。
紹介した本がチャンプ本となった横森夏穂里さん。「各地の療養所にも行ってもらいたい」という願いをこめた旅行券10万円分が副賞として主催者から贈られた
最後に森元美代治さんが「5分という限られた時間の中でこれだけの素晴らしい発表が聴けるとは思いもしませんでした。実は『生まれてはならない子として』の著者の宮里良子さんは友人です。帰ったら早速本人にこのことを連絡してあげたいですね。本当に世界ハンセン病の日にふさわしい大会になったと思います」と、イベントを締めくくりました。
バトラー・ゲスト・関係者揃っての記念写真