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Topics 2015.9.25
ハンセン病制圧大使・笹川陽平氏は、2015年8月4日から8月16日のあいだ、ブラジルを訪れ、ハンセン病制圧活動に関する要人との面談と、ハンセン病蔓延州の視察を行なった。
◆8月6日、ハンセン病の治療薬MDTを世界中に無償配布する、ノバルティス財団主催のワークショップ「Leprosy Dialogue Event」に参加した。世界の保健専門家とハンセン病制圧活動に携わる専門家を招待して、現在のハンセン病治療と制圧に向けた政策について議論することが目的のイベントである。笹川氏は “The last mile in leprosy”というタイトルの講演を行い、世界からハンセン病で苦しむ人をなくす活動の、さらなる協力関係の強化についての想いを語った。
その後、ブラジル保健省に移動して、保健大臣アルトゥール・キオロ(Dr. Artur Chioro)氏、副大臣アントニア・ナルディ(Dr. Antonio Nardi)氏と面談を行った。笹川氏はハンセン病の早期発見と、差別をなくすためのメディアを通した啓発活動の重要性を伝えた。また、遠隔地からの定期的な通院が困難な患者も多くいることから、MDT(ハンセン病治療薬)の処方を現在の1ヶ月分の処方から6ヶ月分まとめての処方への医療制度を見直してほしいということを伝えた。
大臣と副大臣は、蔓延州への啓発キャンペーンの取り組みや、教育省と共同で2003の自治体において900万人の子どもを対象にハンセン病の検査を行ったという施策の例を紹介し、2015年末にハンセン病の制圧を達成できるという見込みを語った。
ブラジルのハンセン病の現状は、下記の映像で詳細をご覧いただけます。
http://leprosy.jp/movie/brazil/
◆8月9日、笹川氏はハンセン病新規患者数がブラジル国内トップクラスであるマトグロッソ州(以下、MT州)のクイアバ市スクリ村を訪問した。スクリ村は2年間に渡って新規患者ゼロというデータになっている村であったが、そのデータの信ぴょう性には疑問が持たれていたため「サイレントエリア」と呼ばれていた。実際の医療現場を視察し、そのような村でなにが起こっているのかを視察するのが、今回の訪問の目的であった。
MT州保健局・ハンセン病対策プログラムコーディネータで、ヘルスポストの看護師であるシセロ・メロ(Mr.Cecero Frasa de Melo)氏の案内で、地域の診療所の実際の取り組みを視察し、現場の医療プログラムに関して説明を受けた。メロ氏はデータに対して疑いを持ち、積極的に新規患者を探し出すためにスクリ村に赴任し、市内にある92のヘルスポストのうち10を担当。クイアバ市全体で18年間で250人~300人程度の新規患者を発見したという。
「サイレントエリア」が生まれる原因は、頻繁に起こる医療従事者の入れ替えと、医師の不足によるものであると述べるメロ氏は、ハンセン病の早期発見のためのチームを編成し、トレーニングを行い、適切な診断が行えるような人材を育てているという。また、患者が見つかった場合に家族や近隣住民を診断することをプログラム化して、効率的な早期発見を目指している。
「このやり方を行うことで新規患者はさらに増えるかもしれないが、5年後や10年後には効果が現れるだろう」とメロ氏は語る。笹川氏は、氏の患者に対する丁寧な診察や説明を賞賛した。その後、場所を移し、MT州の新知事ペドロ・タクエス(Mr.Pedro Taques)氏と面談を行った。ペドロ氏は2015年に就任し、ハンセン病対策に真摯に取り組んでいる知事である。任期が終了するまでの3年の間で州のハンセン病患者を減らしたいと考えている。笹川氏の活動に深い理解を示した。
その後笹川氏は、MT州パロア(Parowuia)地区のカトリック教会で回復者の生活向上の活動を行っているハンセン病回復者の組織・IDEAの会合に参加。MT州をハンセン病の最も少ない州にしたいという想いを参加者の前で語った。
◆8月12日、ペルナンブーコ州(以下PE州)保健局を訪問。PE州が実施しているSANAR計画について概要説明を受けた。SANAR計画とはハンセン病を含む「顧みられない熱帯病(NTD)」を対象とした新規患者発見および早期治療のためのプログラムである。取り組みのひとつとして、教育機関と連携して子供の疾病の早期発見に努める活動が紹介された。ハンセン病の初期症状の絵を見せて自分や家族に同じような症状がないか確認させる取り組みで、2013年に24万人の児童を対象に活動を行い、20,107人が検査を受け、57人の感染者が発見されたという。
笹川氏は、SANAR計画の取り組みの素晴らしさをたたえ、ハンセン病対策が進んでいる州として各州に紹介したいとコメントした。
◆8月13日、1941年に開業して以来、多くのハンセン病患者を治療・収容してきたHospital Geral Mirueiraを訪問し、病院の歴史を視察した。11,000ヘクタールの病院敷地は、回復者の居住区、教会や劇場などもありまるで小さな町のようだったという。かつて隔離された患者・回復者の中には、音楽や文学などの芸術を通して、自分たちの存在をアピールする人たちもいた。それらの記録は看護師のカルロスさん(Ms. Carlos)が大切に保存している。笹川氏は回復者の社会参加には病院のサポートが不可欠である旨を強調した。
その後、Hospital Geral Mirueiraに隣接している回復者センターに場所を移し、MORHANが関係する回復者の議に出席した。ハンセン病患者の強制隔離政策によって引き離された家族をテーマに、回復者やその家族と語り合った。世界のハンセン病の差別をなくす活動への想いを語り、政治・行政に働きかけるハンセン病回復者と家族の組織であるMORHANとの今後の協力を約束した。