The Documentary / ハンセン病の現場にレンズを向けて
vol.10
Ethiopia
エチオピアのハンセン病回復者団体、ENAPAL(エナパル)。
そのENAPALが今もっとも力を注ぐのが「マイクロクレジット(小口融資)」という就労支援への取り組みです。
これにより、エチオピアでは回復者が仕事を持ち、社会復帰を果たす動きが高まっています。
しかしその一方で、未だに仕事を持てず、貧困に喘ぐ回復者も後を絶ちません。
彼らの明暗を分けるものとは、いったい何なのでしょうか。
社会復帰に向けて奮闘する、回復者たちの姿にレンズを向けました。
本編 29分45秒
ハンセン病の回復者は、社会の差別によって仕事を失い、物乞いとなることが少なくありません。そして物乞いであるが故に周囲の人々から蔑視され、新たな差別を生むという“負の連鎖”が世界中で繰り返されてきました。
しかし近年、エチオピアでは一般の人と共に働き、同じ社会で生活をする回復者が現れています。
そのカギを握るのが、「マイクロクレジット(小口融資)」というENAPALの就労支援への取り組みです。社会から孤立し、仕事を持てない回復者にENAPALが少額の資金を融資。それを元手に回復者自身が商売を始め、生活を立て直し、社会への復帰を目指すというものです。また、回復者が社会に出て働くことで周囲の人々の意識も変わり、彼らに対して敬意を抱くようになります。マイクロクレジットは、回復者の人生を変える大きなチャンスを秘めているのです。
しかし教育や仕事の経験が乏しい彼らにとって、資金を運用し、商売をすることは簡単ではありません。それでも回復者たちは、自分の人生を、自分の力で生きていかなければなりません。
彼らが乗り越えるべき“壁”は、想像以上に高く、分厚いものでした。
ビルケ・ニガトゥ(回復者組織「ENAPAL」前会長・回復者)
現在56歳のビルケさんは、6歳の時にハンセン病を発症しました。母親はショックで寝込み、祖母は“神罰”と誤解し、聖水や魔女探しに明け暮れました。正しい治療方法を知った後も、家族は周囲の差別を怖れ、通院することを許しませんでした。ビルケさんはそんな家族と縁を切り、きちんと治療をするために単身でアディスアベバに移住。以来、家族とは絶縁状態が続いています。
移住当初は住み込みの家政婦をして働いたビルケさんでしたが、生活は苦しく薬も充分に買えませんでした。病状は日に日に悪化。両手足に重い後遺障害が残ってしまいました。その障害のせいで普通の人間として扱われず、住み込み先の主人から不当な差別や酷い性暴力を受け続けました。
やがてビルケさんはENAPALに参加。2000年から6年に渡って会長を務め、組織の拡大に大いに貢献します。地方支部を設立するために、自ら田舎へと出向き、回復者一人ひとりを説得。悪路のため車が故障し、一人で野宿をした回数は数え切れません。ビルケさんの任期中、ENAPALの地方支部は17から63に増えました。
ビルケさんの願いは、ハンセン病のない社会を実現すること。差別のない、回復者が自立して生きていける環境作りを目指して、今日も活動しています。
母:ムル・ダディエ(回復者)/ 長男:タメスゲン・アブラハム
現在58歳のムルさんは、7歳でハンセン病を発症。家族に迷惑をかけまいと自ら家を出て、孤児院で宣教師と回復者たちに育てられました。幼かったムルさんは、手足に後遺障害のある回復者が作る食事を食べることができませんでした。口にしたら病気が感染し、自分の手足も溶けて無くなると怖れたのです。
その後、ある回復者夫婦に養女としてもらわれたムルさん。義母からお酒造りを教わります。義母は回復者が一般社会で生きる大変さを痛感していたため、ムルさんに自分と同じ苦労を背負わせたくなかったのです。以来、このお酒造りはムルさんにとって、貴重な“生きる術”となっています。
若くして結婚、夫と死別したムルさんは、女手一つで4人の子どもを育てました。生活は貧しくなる一方でしたが、子どもたちが家計を支えてくれました。特に長男のタメスゲンさんは学校の後、朝4時まで働くという暮らしを続けてきました。
2002年、ENAPALが取り組むマイクロクレジットのことを知ったムルさんは、融資金を元手に酒蔵を立ち上げます。彼女の造るお酒はアルコール度数が60度にも関わらず、甘くまろやかな口当たり。たちまち評判となり、暮し向きは見違えるほど向上しました。
二人の最近の楽しみは、リビングに布団を敷き、寝転びながらDVDを鑑賞すること。一番のお気に入りはサッカー映画です。
総合演出:浅野直広 / ディレクター:松山紀惠 / 取材:石井永二 / プロデューサー:浅野直広、富田朋子 / GP:田中直人
海外プロデューサー:津田環 / AD:渡辺裕太 / 撮影:君野史幸、西徹 / VE:藤枝孝幸、岩佐治彦 / 音効:細見浩三
EED:米山滋 / MA:清水伸行 / コーディネーター:西山ももこ、藤里衣 / リポーター・日本語版ナレーター:華恵
制作:テレビマンユニオン
vol.11
降り注ぐインドの強烈な日差し。手押し車に座った彼らとその間にさえぎるものは何もありません。患部が目立つ姿勢を作り「お父さん、お母さん、お金をください」と叫んで、他人に手を差し出し続けます。「物乞い」をすることでしか生きていけないインドの回復者たち。彼らは日々...
vol.9
世界でも珍しい徹底した対策で患者数を激減することに成功したモロッコ。しかし患者の数が減ったからといって、社会からハンセン病への偏見や差別がなくなることはありませんでした。家族や周囲から疎外され、なす術もなく孤立を深める患者や回復者たち。モロッコのハンセン病制圧の...